医療従事者、産業医スタッフ向け



今月の現場から(保健師コラムリレー)

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~治療と仕事の両立を考える~

パナソニック健康保険組合  横山淳子

2年前のある日、私は主治医からがんの告知を受けました。自分のこととしてとらえること、家族のこと、仕事のことなど不安な心と葛藤し、整理していく中で、以前は病気をしたら休む、場合によっては仕事を辞めなければならないという選択肢しか頭に浮かびませんでしたが、主治医から言われた「仕事を辞めないでください。」の言葉に「あぁ、世の中は両立支援になったんだな。」と思いました。病気は自分の人生の中での通過点、一つのエピソードであり、自分のからだとうまく付き合いながら変わらず生活をしていくのですよとエールを贈られ、背中を押されたように感じました。治療と仕事の両立支援という言葉が少しずつ浸透してきたように思いました。
 治療をすすめていく中で体験したことですが、抗がん剤の点滴治療を行うオンコロジーセンターでは看護師から「ここにいる人たちは皆“かつら”ですよ。」と聞かされびっくりしたのを覚えています。皆さん身だしなみをきれいに整えていて血色も良く元気そうに見え、誰が患者で誰が付き添いかわからないくらいでした。
 脱毛、爪の変化やシミ対策などウイッグや化粧法といった身だしなみに関する「外見の相談会」から運動習慣のすすめの一つとして「ヨガの講習会」、「心のケア」など「治療をしていてもさらに美しく生活を楽しむ」ための情報が随所で紹介されていました。病気だから嘆くという時代から病気があっても「いきいき」と過ごす時代に変化してきたのだと思いました。
 私は治療中であっても仕事を継続することをお勧めします。働くことで得られる規則正しい生活リズムは何よりも健康につながると思います。主体はあくまで自分自身ですが、仕事に行くために朝定時に起きる、夜早く寝る、食事を三食きちんと摂る、通勤等で歩く、また職場の仲間とのコミュニケーションなど社会とつながっているという自信がなによりも心の健康を助けます。ただし治療中は自律神経の乱れから睡眠が浅くなったり、ちょっとした出来事がいつもより敏感に感じられることもあります。気持ちや時間に余裕をもって過ごすことが大事です。また、治療中の症状に白血球数減少による抵抗力の低下、吐き気や味覚異常で食事がとりづらい、手足のしびれで物が持てないなど周囲からはわかりづらいものもあります。
 私の場合は、2種類の抗がん剤の点滴治療を約半年間受けましたが年休、半休、時間休を使いながら勤務しました。主治医から副作用も人それぞれ出方が違うと言われ、前半に行った副作用が強いと言われる3週間に1度の点滴治療で念のため休業の診断書をもらいました。点滴治療後の約2週間は吐き気、だるさ等で仕事に行ける状態ではありませんでしたが最終週は勤務しました。体力温存と通勤ラッシュを避けるために勤務初日は午後半休をとり、2日目からは夕方1時間の時間休をとりました。また点滴治療に行く度に上司に報告し職場の仲間に状況を伝える機会がありましたので、抵抗力低下による感染しやすさも理解してもらえ、お互いが風邪をひかないこと、マスクの着用や対面業務の交代など細やかな配慮をしてもらえました。後半の週1回の点滴治療では毎日勤務できましたが手のしびれや重いものが持てなくなっていましたので、ペットボトルを開けてもらったり重い荷物を持ってもらったりしました。元気な時と違い、体力がなく動きも鈍く、駅まで歩くのもたくさんの人に追い抜かれながらようやくたどり着いていました。職場のメンバーに業務のしわ寄せがいき申し訳ない気持ちでしたが、少しでも皆の役に立ちたいと思い、味覚が変わり美味しくなくても本来の味を想像してしっかり食事をとり、体が動かせるようになったら外に出てよく歩く、睡眠も浅くしか取れませんが7時間はとるようにし自己管理で体力維持に努めました。
 私の場合は周囲も医療職で恵まれた環境の中で仕事と治療を進めることができましたが、改めて普段から職場内でお互いのことを相談したり、気遣える風通しの良い職場を目指すことが大切であると思いました。