今月の現場から(保健師コラムリレー)

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治療と仕事の両立支援に関して思うこと ~産業保健師の日常から~

株式会社クボタ 健康経営推進部 保健師 吉田 美恵子

弊社では、治療と仕事の両立支援制度が必要となった時には本人と職場の状況に応じて個別に対応しています。そこで『治療と仕事の両立』という言葉から思いおこされる私の産業保健活動をご紹介したいと思います。
 1つ目はずいぶん以前に受講した研修での一コマです。『海外赴任者の健康管理』がテーマで、研修の中でグループでの事例検討がなされました。事例は『海外赴任が決まった従業員が赴任時健診で高血圧症である事が判明。赴任先では一人暮らしとなる。赴任地は先進国であるが、医療状況がよいとは言えない地域。産業保健職としてどのような判断・支援をすべきか』でした。参加メンバーからは安全配慮の面から赴任は中止とし、日本での投薬治療を開始する、という意見が多数でしたが、最後に講師から以下のようなお話がありました。
「この事例の方には入社当時からの夢があり、赴任先で新たにスタートするプロジェクトはまさにその夢を実現するチャンスであった事。『治療最優先⇒赴任中止』は産業保健職の判断として正しいかもしれないが、私たちの判断は、その人のこれからの会社人生を変える事もありうる、判断を必要とする時には状況や対象者の思いもよく知り、先に進めていく事が大切です」
 産業保健師の仕事は会社や従業員の皆さんを元気にする事だと思ってきましたが、人の人生を(思ってもいない方向に)変えてしまう事がありうる、この私にも・・・と、自分の仕事の大きな責任を感じた若かりし頃の出来事でした。
 2つ目はがんの従業員への対応で実感したことです。
 体力が相当に衰えてきても『自分の会社人生を全うしたい』と願っていた従業員の方がいました。もう体力的に到底一人前の仕事はできそうにないが、ご本人の気持ちもよくわかり、これまで誠実に仕事をしてこられた方でもあることを考慮して、ご本人を中心に会社の方、職場の方、ご家族と話し合い、しばらく出社を続けることになりました。残念ながらその方はお亡くなりになりましたが、「ご本人は満足し、『人生を全うできた』と話していた」と後日に伺いました。私たち産業保健職は見守るしかなく、両立支援は支え応援してくれる周囲の方々があってこそ、という事を実感した出来事でした。
 両立支援は従業員の皆さんの幸せのみならず、企業側にも労働者の安心感やモチベーションの向上による人材の定着・生産性の向上、健康経営の実現、多様な人材の活用による組織や事業の活性化、組織としての社会的責任の実現、労働者のワーク・ライフ・バランスの実現等たくさんのメリットがある取り組みです。
 そしてそれは産業保健の目的とも合致します。私が産業保健に携わってから、世の中の「健康」に関する関心度合いも、弊社の中での産業保健活動も大きく変化してきましたが、以前より変わらない基本となるものだと思っています。これからも従業員さんと会社にとっての幸せ(well-being)を探しながら、日々活動していきたいと思っています。

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