今月の現場から(保健師コラムリレー)

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会社と社員の相互作用での両立支援

キヤノン株式会社 安全衛生部 矢内 美雪

「治療と仕事の両立支援」という言葉は比較的新しい表現ですが、労働と健康の調和を目指す産業保健の現場では、基盤となる考え方であり、言葉の認知以前から多くの支援が行われていたのではないかと思います。弊社の古い記録からは、1950年代にはすでに結核になった社員に対して、治療につなげる支援や休職制度の導入、休業中から復職に向けた支援が心理的なサポートも含め丁寧に行われていた様子が伺えます。会社が様々な制度や支援を提供することと合わせて、ご本人自身が相談すること、治療努力などセルフケアを行う相互作用が当時から大切な要素として考えられていた様です。
 半世紀以上が経過する現在、健康課題が変化する中で、奇しくも感染症であるCOVID19対策に取り組む日々ですが、この間大きく変化している点は、医療技術の進歩などを背景に、対象となる疾患が休業や離職を前提としない、働きながらつき合っていくものが中心となったことです。あわせて働く環境や働き方も多様化しており、この変化の中で「両立支援」の必要性がさらに高まり、私たちが行う支援も多面的な視点を持ちながらより組織的で個別性が高いものになってきたと感じています。

 例えば難治性疾患の方への支援は、「完治」がゴールではなく、安全を確保しながら、就労を継続することがテーマとなります。まずご本人の思いや意思を確認し、働くための配慮を検討します。具体的には、ご本人に働きたいとの意思があることを確認し、主治医から、通勤も含め配慮が必要だが現時点で働くことは可能などの判断がされた場合に、支援を行います。可能ならば、ご本人や家族、人事とともに主治医への同行受診等を定期的に行い、疾患や治療状況、今後の経過や就業上のリスクや配慮点などを確認することが望ましいと考えます。同時に会社側はご本人の会社での状況や心配な点なども率直に伝えて相談できる対応を構築し、関係者で対応を検討することも必要です。また、職場では、仕事力に応じた業務設計(例えばPC上での作業を中心に業務を組みかえるなど)や、外部の支援機関協力のもと業務を円滑にかつ安全に行うための職場におけるバリアフリーの徹底や各種補助設備の設置、ご本人の身体状況に応じた業務スペースの改装など、まさにオーダーメイド的な安全対策を行うことが重要です。その上で、ご本人にも安全に働くために、補助設備などを確実に使うこと、ヒヤリハットはすぐ報告することなどの徹底を働きかけます。さらに病状の変化の有無を確認し、変化があれば対応の変更を継続してゆくことが肝要と考えます。
 「治療と仕事の両立」は、就業を続けるための課題を予測し、関係者の情報共有や支援のベクトルを合わせること、安易に制度にあてはめるのではなく、本人の意思と会社ができる配慮をすり合わせながら様々なコンフリクトに対して丁寧に合意をとるプロセスの積み上げが非常に重要で、今後も労働と健康の調和とともに、社員の安心感やモチベーションの向上、多様な人材の活用による組織や生産性の向上にもつながっていくことを目指していきたいです。

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