今月の現場から(保健師コラムリレー)

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中国銀行健康保険組合 井上恵

私は30数年間、職場の健康管理に携わってきました。入職当時の私に『両立支援』という認識はありませんでしたが、行員の相談に対応しているうちに、働きたいと願う従業員が治療しながら働くことができること、健康状態に不調を抱えていてもできる限り良い方法が選択でき働き続けることができることを支援するのが産業保健師の私の役割であると実感しました。そして何よりも従業員が『健康に働き続ける』ことができるように支援する役割の重要性を強く感じました。
 従業員の健康管理に関して、会社には安全配慮義務、労働者には自己保健義務があります。労働者が自己保健義務(自身の健康を守るための努力)を果たさなければ、どんなに「働き続けたい」と願っても、我々がどのように支援しても安全で健康に働くことはできないと思います。
 「体調不良であってもまず出勤してから保健室で検温して早退する行員達の対応をどうすればよいか」新型インフルエンザ流行期を前に対応策に苦慮していた頃の話です。
 ニューヨーク支店から転勤で帰国した支店長との会話で、「アメリカでは体調不良の時は、まず出勤しない。自分の責任(ベストパフォーマンスの提供、感染拡大のリスク)に対しての考え方、意識の違いかな。」という言葉に「そうか!行員へのセルフチェック、セルフマネジメントの意識づけが必要なんだ。」と気づきました。産業医と相談して、『自分の体調チェックのための出勤前の検温』を銀行に提言し、行員に体温計の常備と検温の習慣化を周知しました。
 まず従業員が自分で自分の状態に気づくことができること、自分の健康状態を把握し職場の上司や同僚に伝えられることが必要ですし、職場はそれをきちんと理解し適切な配慮ができることが必要です。そのためには双方に信頼関係があり、しっかりコミュニケーションが図れている職場環境であることと、職場風土が醸成されていることが不可欠です。
 私は、2001年から年に1回、管理監督者向けの研修を実施しています。各部署・営業店・各関連会社の1~2名が参加する集合研修が、2014年からはビデオ研修となり、受講後に職場全体で研修内容の勉強会が行われています。テーマは様々ですが、受講により自分自身のアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込みや偏見、無意識の偏ったものの見方や捉え方)に気づき、風通しの良い職場環境をつくることができるように研修内容を考えて取り組んでいます。また、毎月1回の衛生委員会はメンバーと意見交換ができる貴重な機会として積極的に活用しています。そのメンバーであるダイバーシティ推進担当部の行員が『がんを知るセミナー』を企画し、演者が自分のがん治療と就労の実態とかかわり方への思いについて講演するオンラインセミナーを開催しました。初めての企画でしたが、受講者ががん治療者の就労について理解を深め、かかわり方(寄り添い方)を考えることができる内容でした。このように職場全体で時代に応じた働きやすい環境づくりに常に取り組んでいることが『両立支援』が当たり前になることにつながるのだと思います。
 自分に必要な健康や医療の情報を探し、理解し、活用する能力をヘルスリテラシーといいます。ヘルスリテラシーは、個人の健康についての知識や行動、健康状態に影響するだけでなく、周囲の人にも相互に影響して、集団の健康にも影響しますので、従業員のヘルスリテラシーは、個人にとっても職場や会社にとってもとても重要で必要な能力です。
 これからも『両立支援』を進めていくには、会社が制度を整えるだけではなく、従業員一人ひとりのヘルスリテラシーの向上は欠かせません。従業員と会社が共にWin -Winである『両立支援』のために従業員全体のヘルスリテラシーの向上にこれからも努めていきたいと考えています。

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