今月の現場から(保健師コラムリレー)

woman

~着目!!「糖尿病治療中断者が約8%」私に出来る治療と仕事の両立支援は「休業前の支援」~

奈良産業保健総合支援センター(産業保健専門職) 上坂聖美

<97%が50人未満の事業場>
 小規模事業が殆どの奈良。そこで「治療と仕事の両立支援」を行うのです。私が産業保健専門職として採用されて以来「がん相談支援センター・県難病相談支援センター・NPO難病連」との連携で寄せられる相談は、約8割が退職を前提の経済的相談です。
<きっかけは事業場訪問現場での保健指導>
 地域産業保健センターのコーディネーターから、事業場訪問による保健指導の依頼がありました。そこは、深夜も働く運輸業で、従業員数は20人弱。ほとんどが長距離トラックのドライバーです。健康診断の個人票に目を通すと“びっくり仰天“。この事業場での高血糖(HbA1c9~11はコントロール不良からパニック値と呼ばれる数値)者の保健指導を行った経験をきっかけに私の両立支援のスタイルが見えてきました。
<労働者も管理者も病気のことは分かっていない>
 健康管理者でもある社長さんに、私から「糖尿病のコントロールの大変悪い方がおられるんですが・・」ときりだすと、「あー、うちの健診はメシ食ってからやってるから、血糖は正確じゃないねん」と社長さん。そこで丁寧に、血糖とHbA1cの違い、糖尿病の合併症、治療継続の必要性を説明し、治療の重要性を理解いただきました。合併症に心筋梗塞があることも驚きの様子でした。
 そこで高血糖者を対象に直接面談による保健指導を実施することができ、糖尿病の説明と医療機関への受診を勧めました。
<保健指導と事業主の計らいは重要!>これぞまさしく「治療と仕事の両立支援」!!
 本人同意のもと、社長さんに、かかりやすい糖尿病専門の医院を探してもらい、トラックを停めさせてもらう場所や診療日時を調べてそのドライバーへ伝え、そこへ受診することになったようです。半年後の深夜業による特定業務健診の結果で、面談した方々の血糖値の改善が確認できました。
<健康配慮義務を盾に!!>事業主である社長さんへは、健康配慮義務についてもお話しています。
<「糖尿病治療」中断率約8%を打破できたら・・・休業が減るのでは?!>
 糖尿病のみならず、治療中断をなくすことで避けられる休業もあるのではないかと考え活動しています。先日も、肝機能(ALT・AST・γGTPともに前年まで基準値内)が今回全て三桁に上昇していた例でも本人は気にもとめず、事業主はそれに気付いておらず通常勤務中であり早急に受診を勧めました、また血圧180間近/110超えの運転手のいる例、糖尿病コントロール不良の例等々…早めの治療行動が望まれる例に度々遭遇します。
<休業前の治療と仕事の両立支援を目指して>
 予防可能な疾病である脳卒中や重症化予防可能な糖尿病、肝炎、心疾患、などは定期健康診断で早期の異常段階で把握が可能です。そのような疾病に関しては重症化予防を前提に治療中断の防止策としても、通院しやすい体制づくりやフォローも事業主の大切な役目だと思います。産業保健専門職(保健師)として出来ることは、事業場訪問時に健康診断結果の見方や適切な受診勧奨、治療継続のチェック等について事業主にアドバイスし「治療と仕事の両立」しやすい職場づくりのお手伝いをすることと考え、これからも「休業前の支援」に力をいれて活動を続けたいと思います。

ページのトップへ戻る