今月の現場から(保健師コラムリレー)

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~宮城県内事業場の両立支援の状況~

宮城産業保健総合支援センター 産業保健専門職 木村 裕香子

宮城県は人口約230万人で全国では14番目に多く、人口のおよそ半数近くと、市町村別総生産の半数以上が仙台市に集中している一極集中型が特徴です。そのような宮城県において、両立支援の状況を把握するために、平成31年2月~令和2年3月に仙台市内の事業場を中心に訪問を行いました。115の事業場から聞き取りを行った結果、本社が地元宮城県か、県外本社の支社支店かによって違いが見えてきました。
 まず、本社が地元宮城県の事業場は中小企業がほとんどで、両立支援に活用可能な規程等の整備が進んでいないところが多く、「病気の社員に対し社長の特例で休暇を延長した」「病気の社員に対し時間休の規則はないが暗黙の了解で1~2時間中抜けして受診してもらっている」など、ケースバイケースで対応しているという声が複数聞かれました。また「社長が義務化されていない両立支援は後回しでよいという考えである」という事業場と、「社長から社員が病気になって急に辞められたら困るため、両立できる体制を作る必要があるのではないかと言われている」という事業場があるなど、経営者の一言で両立支援の体制づくりが左右されることがわかりました。さらに労働者数が50人未満の事業場では「産業医がおらず復職の判断に迷う」という声がある一方で、50人以上の事業場では「産業医は選任しているが活用できていない」という事業場が複数ありました。
 本社が県外の事業場については大企業の支社支店が多く、両立支援に必要な規程(積み立て有給休暇制度、時間単位の年次有給休暇制度、短時間勤務制度など)が整備されている事業場が多くありました。「主治医・産業医・人事労務担当者・管理職がチームとなり復職支援プログラムを作成。プログラムは本社で審査され、復職のスピードや配属先などに無理がある場合は、プログラムが支社に差し戻され検討し直すこととなっており、確実に無理なく復職できるような仕組となっている」など制度・体制が充実している事業場がある一方で、「制度が充実しているにもかかわらず、それを知らない社員が多い」「本社の産業医と支社の産業医の役割がはっきりしていないため戸惑う」「両立支援については支社任せ」など制度があっても体制が整っていない事業場もありました。また、「人事労務部門は本社に集約されており、労務管理はIT化されているためスマホで休暇の申請ができる」など事業の効率化が進んでいる事業場もあり、効率化という点ではメリットですが「病気になっても誰にも知られずに休暇をとることができる」など、事業場が社員の健康状態を把握しづらいというデメリットも垣間見えました。さらに「支社には人事労務担当者がいないので」と訪問を断られた事業場も複数あり、そのこと自体が事業場や労働者への両立支援の周知啓発の妨げとなっているなど、地方都市ならではの課題も見えてきました。
 以上のことから、地元企業の両立支援の周知啓発を進めるには、社長や管理職に直接アプローチし両立支援の必要性を理解してもらうことや、産業医を活用した体制づくりを勧めることが必要であり、大企業の支社支店の事業場には、労働者への周知や関係者の役割・対応手順を整理することを提案する必要があると感じました。また、両立支援を進めたいと思っても、主治医の協力が得られず、対応に困惑したという声も聞かれましたので、今後は関係機関と協力しながら、医療機関への周知も進めていきたいと思います。

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