今月の現場から(保健師コラムリレー)

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~接客販売職の治療と仕事の両立支援を目指して~

株式会社 アルビオン 人事部 保健師 高木智子

初めまして、株式会社アルビオンで産業保健師をしております、高木智子です。弊社は、約3,700人の従業員数で、高級化粧品の製造販売を事業としています。従業員の約8割は、女性の接客販売職が占めており、非常に女性が多い企業であるという特徴があります。今回は、私が入社してから9年間、治療と仕事の両立支援を目指して、葛藤してきた振り返りをご紹介できればと思います。
 さて、ここで皆さんに、少し、接客販売職の労働環境を想像して頂きたいと思います。皆さんがお買い物をされる時に接客をしている側の方は、どんな場所で、どんな姿勢で、どのような表情で商品説明をしていますか?
 入社直後、こうした接客販売職の特殊な労働環境をアセスメントすることから、私の産業保健活動の第一フェーズがスタートしました。接客販売職という職種をアセスメントすると、ほぼ終日パンプス着用下での立位姿勢での業務であり、自身のタイミングでお化粧室にいくことや、体調が悪い時に少し横になることもなかなか難しいこと。また、職種上、在宅勤務などの制度の適応が難しく、あくまで店頭での接客販売ができることが病気休業からの職場復帰の条件となること。そして体力だけではなく、常に笑顔を絶やすことなく、店頭に立ち、接客販売職としての高いプロ意識を持つ精神力が求められること。こうした条件が整って初めて「接客販売職」として業務遂行が可能となる難易度の高い職種であると考えました。両立支援の観点からすると、復職後の業務は、治療をする前と同じ体力と精神力が要求される復職のハードルの高い職種なのです。
 入社から1年ぐらいすると相談件数が増加しましたが、一方で働きたいという対象者の気持ちに応えたくても、体調に合わせた柔軟な制度や働き方を提案することができず、休職が長期化するケースが山積してきました。また、対象者から、「どのような状態になれば、復帰ができるのですか?」というストレートな質問を受けることが多くなりました。両立支援のガイドラインを読み込み、他社の事例などもよく調べ、運用できる復職プログラムがないか検討しましたが、特殊な職種である接客販売職に汎用できるプログラムは見つかりませんでした。それであれば、復職条件などを記載した独自の復職プログラムの作成が必要ではないかと思い始めたところから、私の第二フェーズがスタートしたように思います。どのような復職プログラムが必要かについて、従業員、職場、接客販売職の教育部門、人事労務担当者に綿密にヒヤリングをし、独自の復職プログラムを試行錯誤の上、作成しました。そして、独自の復職プログラムが完成し、冊子化され、手元に届いた時は、本当に心から嬉しい気持ちなりました。苦労して作成した復職プログラムは、現在、社内に浸透し、運用されています。独自の復職プログラムの一部をご紹介しますと、パンプス着用下で2時間以上の散歩ができることなど、接客販売職ならではの特徴を盛り込んだ復職条件を取り入れています。このように復帰に向けた体力の目安を具体的に提示することで、病気になっても、安心して療養し、そしてスムーズな復帰ができるよう、内容を検討しました。復帰してからのフォローも盛り込んだこの復職プログラムは、これからも時代の変化に合わせブラッシュアップをしていきたいと思っております。
 そして、現在は、会社の制度づくりに取り組む第三フェーズが、スタートしております。就業規則の改訂などの第三フェーズは、復職プログラムの作成・普及よりももっと、難儀です。本質的な両立支援はこれからだと思っています。ここからです。第一フェーズから積み重ねてきた両立支援をしっかり根付かせ、従業員の健康状態や事情に配慮した医療専門職の意見が取り入れられた柔軟性のある働き方を取り入れた幅がある制度づくりを提案していきたいと思っています。

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