今月の現場から(保健師コラムリレー)

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福岡産業保健総合支援センター 産業保健専門職 市川富美子

独立行政法人労働者健康安全機構産業保健総合支援センター(以下「産保センター」という。)では、平成30年度より常勤保健師が各県に配置され、現在活動を行っています。
 福岡産保センターにおいては、事業場で発生した相談案件や課題に対して、各専門分野の産業保健相談員等が、対応の方向性を助言する支援がメインでした。
 しかし、事業場にとって、特に小規模事業場における労働衛生に関する相談内容は、一度二度の助言で解決するものばかりではなく、その事業場自らが労働者の健康管理を図っていく体制構築のためには、初めのうちはある程度継続して相談に対応したり、助言などを行っていく関わりが必要であると痛感しています。
 そんな中で、産保センター事業として「治療と仕事の両立支援」が始まりました。病気を持ちながら働く労働者がいる小規模事業場から、「労働者の主治医から意見をもらうにはどうしたらよいか」「職場を訪問して作業環境について助言をしてほしい」などの支援の申し込みが増えてきています。産業保健スタッフがいない中小規模事業場を支援する役割を担う地域産業保健センターと連携を取りながら、産保センターの保健師として、益々「事業場や労働者にとって有益な支援とは何か」を考えさせられます。
 両立支援に関わる保健師として、病気を持つご本人に自分の状況に立ち向かう意識を持っていただく、また働く場に戻りたいという気持ちや希望を持てるようなサポートがしたいと思います。そして、病気を持ちながら働く同僚を理解し、支えあう職場環境を醸成できるような関りができたらと思います。
 また、専門職として専門知識やスキルを研鑽しながら、病院スタッフや会社側の産業保健スタッフなど、多職種との連携を進めていくことが必要だと思っています。その際、ご本人から両立支援に必要な情報を提供していただき、関係者で共有できるシステムが構築できていれば、さらに効果的だと思います。福岡産業保健総合支援センターでは、両立支援を円滑かつ効果的に推進するため、ご本人に自分の健康・診療情報をスマートフォン等に蓄積してもらい、必要時に関係者がその情報を共有できるシステムを検討中です。
 両立支援は労働者ご本人の主体的な意思表示があり、本人の働き方や治療に対する考え方、「自分はどうしていきたいか」という気持に添っている必要があると思います。
 ある専門家から、かのエジソンの言葉をご紹介いただきました。「将来の医者は薬を出さない。そのかわり患者に人間の体、食事、病気の原因と予防のことに関心をもたせるようにする。」
 ご本人の苦難な状況に立ち向かおうとする力をサポートすることが両立支援の本質なのかもしれません。職場環境を整えて、同僚や上司がご本人を迎え入れる土壌を醸成しておくことが、ご本人の力を引き出すサポートのひとつでもあると感じます。
 多職種からのサポートをご本人が利用できるように、専門職として調整することが必要だと思っています。そして両立支援を通して、ひとりひとりが自分の健康や働き方に主体的な関心を持ち、生きやすく働きがいのある社会の形成に繋がれば良いと思います。

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