今月の現場から(保健師コラムリレー)

woman

~ 治療と仕事の両立支援 in みやざき ~

宮崎産業保健総合支援センター 産業保健専門職(保健師)  湯川裕美

宮崎県は、南北縦に長い県です。
 交通事情としては、新幹線や高速道路などの交通事情はまだまだ発展途上で、県民の交通手段の多くは自動車です。
 そのため、本県で治療と仕事の両立支援に取り組むにあたって、新規相談窓口の開設が必要と考え、拠点病院を訪問し現在県内4医療機関に窓口を開設しています。
 窓口では促進員による細やかな相談を展開し、セミナーでは、がん予防から入り両立支援のPRをさせていただいています。
 ですが、活動もまだまだ行き届いていない部分も多く、先日訪問したある地域の医療機関の医師から、「この地域の住民は、がんであることを人に知られたくない、と思っている人がまだまだ多いんです。だから、窓口を設けるときは、人目につかない場所を選ばないと。」と言われました。
 「がんは治らない病気」だという根強い認識があることを実感しました。
 そんな中でも、積極的に両立支援に取り組まれた事業場についてお伝えしたいと思います。
 ある事業場の人事労務担当者から一本のお電話がセンターにありました。
 昨日開催した両立支援セミナーに出席し、支援をしてもらいたい労働者がいるとのこと、そのご本人にも了解を得ている旨お話され、事業場を訪問しました。
 事務所に入ると、人事労務担当の主任、その上司の課長、次長が迎えてくださいました。そしてまず、一言目に「会社ができることは何でもします。でも何ができるかわからない。できることを教えてください。Aさんを支援したい。」とおっしゃいました。
 そして、その思いを受け、Aさんにお会いしました。手術後療養し復職したが、がんが再発、抗がん剤治療が始まったこと、また、副作用の悩み、そして有給休暇も残り少ない中での働き方について相談を受けました。
 Aさんの仕事や、同僚、会社に対する誠実な思いが話の中から容易に伝わってきました。
 「これだけ、会社も自分に対して一生懸命してくれて、申し訳ない。申し訳ないけどしっかり治療をして、恩返しします。だからこそ、支援をお願いしたい。」
 話を聞くと、働きたい思いはとても強いけれども、主治医からの意見書はまだもらっておらず、治療の見通しも詳細は不明でしたので、産業医の先生とも連携しながら、まずはそこから始めることとしました。
 もちろん、勤務情報提供書は事業場がすぐにでも用意しますとのことで、Aさんに主治医からの意見書をいただくことをお願いしました。
 また、再発であるために、すでに有給休暇がほとんど残っていないとのこと、半日休暇等の仕組みもないとのことから、まず事業場として就業規則の見直しについて伝えると、「ぜひ、お願いします」と、次回以降社労士の促進員とともに相談を受けることになりました。
 そして半日休暇制度が設けられました。有給休暇を有効に活用しながら、安心して治療に臨めるように。
 さらに、事業場が率先して取り組んだことですが、体制を整えるため、増員することも決まりました。
 この話をセミナーでお伝えすると、「大規模の会社でしょう?」と言われますが、300人未満の事業場の話です。Aさんを見かけると、みんながAさんに話しかける、印象的な事業場でした。
 両立支援はまだまだ浸透しているとは言えない宮崎ですが、このような事業場が増えていくよう、これからも努めていきたいと思います。

ページのトップへ戻る