今月の現場から(保健師コラムリレー)

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~「時代の要請『治療と仕事の両立支援』に思うこと」~

栃木産業保健総合支援センター  産業保健専門職(保健師) 高橋由紀子

「治療と仕事の両立」というと、実際に何らかのご病気で治療をしている方や、定期健康診断結果通知の赤い文字や注意マークが気になりながらもそのままにしている方など、「もしかして自分のこと?」と感じられているのではないでしょうか? 労働者の定期健康診断の有所見率は55.5%に昇りますので大半の労働者の方にとって決して無縁とは言えないはずです。
 かく言う私も様々な健康問題があり、内科、婦人科、眼科、整形外科…と長期にわたって、治療や経過観察をしています。保健師ではありますが、患者としても医療とは切っても切れない仲なのです。入院や手術の時には物心両面の準備に追われ、思わぬ高額な医療費に驚いたり、短い診療時間の中で医師に上手く自分のことを伝えられなかったり、通院のやりくりが大変で治療から半ばドロップアウトしたり、職場や同僚への気兼ねから言い出せず辞めようかなと考えたり、不安で仕事どころではなかった時もありました。ですがそれらの体験が、保健師として病を持ちながら働く人に寄り添うことに役立ってきたように思います。
 これまで臨床看護師として、また複数の事業場で産業保健師として働いてきましたが、健康相談や保健指導で出会ってきた方の中には、病気は自己評価を下げるものと捉えている方が少なからずいらっしゃいました。一方、病気を持つ部下への対応について相談してくる上司の方々は、部下が働いて病気を悪化させないか心から心配している方が多く、ギャップがあった印象があります。“医療職として働いている人は病気にならない”と考えている方もおり「え?保健師さんも?」と言われることがままありました。
 病気となり自身の健康問題と向き合うとき、人は実に様々な不安を抱えます。その不安に産業保健スタッフ等が丹念に寄り添っていくと問題も整理され、与えられた環境の中で何かしらの解決策が見いだせるものですが、その不安を誰にも相談できず抱え込んでいる間は、治療を受ける決断ができなかったり、逆に冷静さを失った中で辞職の決断をして後の後悔につながる場合もあります。事業場には必ずしも専門的な産業保健スタッフがいるとは限りませんが、困った時に相談出来る仕組みや、使える制度、相談することを前向きに捉える風土があれば、事業者、人事労務担当者、上司、同僚等を通じて今ある社内外の資源につながる可能性が高まります。そして主治医はじめ医療スタッフも決して遠い存在ではなく、病を得ながら働く労働者を支える仲間なのだと考えることができると思います。
 治療をしながら働く人や産業保健スタッフにとって「治療と仕事の両立」はこれまでもあった普遍的なテーマだと考えますが、がん対策推進とも相まって「両立支援」をキーワードに、事業者、医療者、そして患者である労働者自らが手をつなぐ時代となりました。生命ある限り誰も健康の問題と無縁でいることはできず、それに続く治療は誰にとっても自分事なのだということが共有できれば、”お互い様“の職場風土も醸成されて「治療と仕事の両立支援」も当たり前のこととして広がっていくものと思います。

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