今月の現場から(保健師コラムリレー)

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アサヒビール㈱博多工場 保健師 住德 松子

最近、通勤時間帯の駅や電車の中で、杖歩行の片マヒの方や白杖を使っている視覚障害の方が通勤している姿を見かけることが増えたように感じます。地方都市の余裕のある通勤風景だからかもしれませんが、治療と仕事の両立支援の取り組みが定着してきていることを実感するとともに、それを支える家族や職場の方々のご苦労に思いが及びます。
 脳血管疾患は左右どちらかの運動機能を障がいされることが多いため、主治医が職場復帰可能と判断しても、それを実現するには次のような課題を解決する必要があります。1)機能訓練終了(症状固定)後の職務遂行能力に適合する職場および仕事の準備、2)準備した職場および業務への職業訓練、3)障がいの特性や就労上の配慮の上司・同僚への周知、4)職場環境のバリアフリー化、5)更衣や食事など日常生活動作のサポート体制の構築、6)非常事態への対応ルール策定、そして忘れてはならないことが7)安全な通勤方法を確保することです。
 1)から6)については、産業医や保健師などの産業保健チームと人事労務担当者が中心となり、主治医や理学療法士などの医療機関関係者、職業カウンセラーやジョブコーチなどの障がい者の就労支援を行う外部機関の協力を得ながら調整をすることで、段階を踏んで問題解決の道が開けます。しかし、通勤という行為は職場側からのアクションは起こせない性質のもの、いわば職場以外の外部要因によるため、労働者本人と家族がクリアすべき課題であり、徒歩通勤圏内に居住するか、マイカー通勤あるいは公共交通機関を使った通勤手段を選択することになります。
 私は、過去に家族がサポートすることで通勤が可能となり、復職できたケースを何例も経験してきました。中途障がいを持つ労働者の再就労は、障がいの程度や種類によっては困難な場合もまだまだ多いと感じていますが、その要因の一つ、通勤というシンプルで重大な課題は、今や本人と家族の努力にたよるだけでなく、社会的にも解決する方向に進んできています。
 平成18年にバリアフリー法が施行され、公共交通機関のバリアフリー化が推進され、障がい者の社会進出の障壁が徐々に取り除かれています。通勤という外部要因が、課題でなくなる時代ももうすぐでしょう。それに伴い、地域や住民が障がいを持った人々と、ともに働き生活するという社会を受け入れ、推進することが出来るようになってきていると、最近の通勤風景を見て感じています。これからは都市部だけではなく、全国各地でソーシャルキャピタルの醸成が進み、片マヒや視覚障害、車いすの利用者等、障がいを持った人たちの就労機会がさらに増えるのではないかと期待しています。

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