今月の現場から(保健師コラムリレー)

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~現場の声から学ぶ治療と仕事の両立支援対策~

島根産業保健総合支援センター 産業保健専門職 仲佐菜生子

「当社では、『常に最高の選択肢であり続ける』ことを目指しています。その一環として、両立支援に先進的に取り組み、お客様や地域へアピールができればと思います。」

「看護部長の私が中心となり、外来・入院における両立支援を推進していきます。小さなコミュニティーだからこそ、情報収集はしやすい。保健所や事業場と連携のうえ患者さんを支えていきます。」

それぞれ島根半島の北方約50kmにある隠岐諸島の、小売業の人事労務担当者、総合病院の看護部長のお言葉です。高齢化の進む島根県で、離島で、両立支援対策がいま動き始めています。

島根産業保健総合支援センター(以下「当センター」という。)では「平成30年度治療と仕事の両立支援計画」を策定し、計画に基づいて、事業場、県内22のがん情報提供促進病院(島根県では各圏域において、がん診療連携拠点病院及びがん診療連携推進病院と連携して、がん診療及びがん情報の提供を行う医療機関を、「がん情報提供促進病院」として指定)、職能団体である看護協会、ソーシャルワーカー協会等を訪問し、周知啓発を行っています。

当センターでは、事業場に対し以前からセミナー等を通じて治療と仕事の両立支援に係る周知を図ってきました。しかし、講義的な一方通行ともいえる情報提供では周知の取組の推進に十分でないと考え、個別訪問し人事労務担当者と直接話しをする形で積極的に情報交換をし周知することに努めることとしました。

実際に個別訪問を行った結果、事業場については先述の隠岐同様、訪問先の多くは、少子高齢化による人材不足を補うため「これまで当たり前に」両立支援を実施しているということがわかりました。また、その中で、「おかげさま」「おたがいさま」の精神が「当たり前」をつくる基礎となり、事業主や他の労働者が多くの痛みを分かち合っている実情も伺いました。さらに、労働者の高齢化により、介護と治療と仕事を両立しなければならず、既存のルールでは対応しきれないこともあることも見えてきました。場合によっては、子育てと介護と治療への配慮が同時ということもあり得ます。色々なケースがありますが、治療と仕事の両立支援において、事業場が柔軟な対応に限界を感じたとき、まず当センターに相談していただきたいとお伝えしています。

一方、がん情報提供促進病院など医療機関側を訪問した際に聞かれたのは、患者の高齢化により働く世代が少なく、両立支援の事例がほとんどないということでした。健診や外来等でがんが発見されたとしても、治療可能な大病院へ紹介するため、支援する機会がなく、転院先ではおそらく十分に支援されているのではないか、ということでした。しかしながら、医療機関は事例のあるなしに関わらず、必要時に慌てず適切な支援を行うための準備が必要と言えます。当センターとしては①患者と関わる全ての職員に対する教育と相談窓口の周知、②がんの告知等インフォームドコンセントにおける患者への案内、大きくこの2点を訪問した医療機関側へ依頼しています。本格的な治療の前と、治療後のフォローアップにおけるサポート体制が整備されることは、地域全体で取り組む両立支援対策として大きな意義があるといえるからです。

私は保健師として、現場から学んだことは、形を変え現場に還元していきたいと考えています。当センターは今後も様々な場へ赴き、両立支援について双方向のやりとりを続けていく所存です。

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